当てのない






僕はいつまでも君のモラトリアムから抜け出せないでいる。
いや、いたい。


伸ばした手!
を、諦めた。
関節から崩れ落ちて壊死してしまったように、
右腕は当てのない旅に出た。

離れて行ったのは君で、
見つけてしまったのは僕で。

喉から飛び出した脊髄反射の声は、
君に届くな!って僕のこころの海がざわめいた。
だから喉が渋滞している。
気持ち悪い閉塞感と停滞感は、
泣きじゃくった時の呼吸できない感じに酷く似ていた。

名前を言わなかったのは、
呼び起こす記憶で今を汚したくなかったから、
だと思う。
思春期だった、
まだ僕と君が認知しあっていたあの頃!
の、思い出は熟れぬまま人知れず腐ってしまって、
羨望しあってた互いの生き方なんて、
希望の光みたいなもんだ。


今日は夏みたいに暑くて、
雲が立ち上がるのが僕の眼には映ったんだ。
青葉が茂る、土は乾いている、
摂理に基づいて、あの雲はきっと雨を降らすね。
自転車で坂を猛スピードで転がり落ちていく。
月日の流れる速度に似て、でもこれは模倣だ。
雲が育つ速度に似て、でもこれは模倣だ。

夕立が世界に幾重も膜を張った。
長い雨脚、春先の埃っぽい雫は、
お世辞にも透明とは言えない感じ。
僕は家に帰っていて、
ギターを弾きながら軒下で俯いていた。
脱ぎ捨てた靴は、君を真似して。
雷が鳴る度に、薄い被膜は細かく震えるんだ。
正直、君がどこに住んでいたか、とか、思い出せない。
この雨が君に降っているとも思えない。

(お元気そうで、何よりです。)

バカだなぁ、
僕は色んなセリフを同時に言った。
本当に声に出たのか、
そんなんどうでもいいんだ。

寒冷前線が僕の頭上を服毒の死に際みたいに
のた打ち回って駆けていく。

きっと今夜は寒くなる。

 



 

帰路