四月の素晴らしきやさしさが、
僕をどこかへ追いやってしまいそう。
愛している、
なんて、
少しの嘘も無いんだ。
なさけない僕を、
どうかどうか笑ってくれればいいんだよ。
昨日、
薄着で、
少し汗ばんでいた君の背中の曲線に偶然触れたんだ。
右の肩甲骨の辺りを、
左手で。
何とはなしにそれを思い返しては、
会話なく繋がってしまった僕らの関係を少し恨んだ。
(ああ!)
温い風がわっと吹き荒れる。
僕の掌に君の温度が離れない。
思い出せば出すほど、
掌に甦る感覚だけが虚しい熱を帯びるんだ。
(もう届かないんだ、よ。)
新宿駅東口から百果園を抜けて、
そのまま靖国通りの信号を待つ。
横暴な自動車の横行、
冷静に狂った人々の冷笑、
この街は!
ほら誰しもが、
抱える孤独に嘘をついて生きる。
ほら誰しもが、
抱える孤独に気づいている。
群衆は巨大な単位を得て、
ようやく笑うことを許してくれる。
ちかちかする色彩の向こうには、
いつだって死んじまえよって思えるくらい綺麗な青空があって、
何処を目指しているのかわからなくなった迷子の若者の眼にはきっと映っていないんだろうなと思う。
(君の眼には映っていただろうか?)
僕はそれが愚問だと言うことを、
この世の誰よりも知っている。
(何だか少し泣けてきた。)
いつまでコンクリートに自らの骨の埋める場所を探しているんだ!
ふらふらと当てもなく彷徨って、
俯いたまま、
それで何を得られよう?
世界は北極点を中心に回らなきゃいけないし、
社会はルールで模らなきゃいけないように、
僕はちゃんと歩かなきゃどこへも行けやしないんだ。
行こう、
君のいない終の棲家は思い出にして、
少しの写真と、
少しのお金と、
少しの荷物で旅に出ようか。
蝶の影、
キリンの影、
蜥蜴の影、
鳶の影、
象の影、
いばらの影、
カマキリの影、
楓の影、
万物の影々が、
歌舞伎町のビルにちぎられたあの青空をゆっくりと列を成して進むのが、
俯くのを辞めた僕の眼には見えるよ!
その列に君の影を見た!
次の点で回る世界へと続く、
長い長いラインにまた温い風が吹いて、
掌の君の体温をゆっくり君に返していく。
僕はちゃんと次にいければ良いと思った。
本当は、
本当はね、
君に会いに行きたいんだけど、
それは君の追憶に反するから、
今は僕はわがままに、
君の愛に生きたい。
(それでもいいかい?)
(いいだろう?)