圧死





 何光年離れたら君は僕を忘れてしまうだろう?火星くらいで根を
上げて、新しい恋を憶えるだろうか。今や世界は僕等を振り落とそ
うと躍起になって周っているようにしか思えない。

 「流星群のピークは今日の夜半過ぎにかけてから…」

 ラジオが飛ばした電波に乗って、今日は何人の人が空を見るんだ
ろう。東京のひかりのノイズに邪魔されて君が見えないよ。たいし
て離れ離れでもないくせに、少しずつその輪郭や声色があやふやに
なっていくのは、もう二度と、ぜったいに、会えないから。僅かな
美化も愛したくない、欠けた風化が心苦しい、未完成と寂しく笑う
君の足りない欠片すら僕には大切なのだから。呼吸を止める事さ
え、あくまでも自分の意志で択べると言うなら、僕は今完全に自由
です。

 僕の二酸化炭素が早々と暮れる秋の雲居に紛う。苦しくて歩けそ
うにないんだ、声も出ないくらいひっそりと泣いていたら、あの遮
断機に掻き消えて、僕は完全に切り離されるかな?夢を見るだけじ
ゃ物足りず、明日を思うには遠すぎて、どうすればいいんだろう。
宇宙の真理!なんて、誰かが勝手に考えただけじゃないか。僕が今
望んでいるのなんて簡単さ、あの星からの君の生還。積み上げられ
た人類の輝く希望に圧し潰され、僕らは新しい進化に甘んじていく。










帰路