ドップラー効果





 誰もいない交差点で待ってる、信号が黄色い点滅で通らない自動
車に注意を促したまま、立ち竦んでは瞬きを止めない。雨は止ん
で、路上は少しのひかりを乱反射。ヘッドフォンから轟音が鼓膜を
通過する、その無名の振動に脊髄が弱い電撃を感じた。桜は青々と
眠らない街で光合成、薄い葉が揺れる、帯びる、謀らんで、落ち
る。大きな夜に小さな鮫がこぼれた牙で蝋燭を灯していく。泣きそ
うな私は覚束ない足取りで、耳を塞いではヘッドライトに気付かな
い。ただあったのは黒い悲鳴だけ。

 文明の速度に轢かれて私は宙を見た!コンクリートは論って笑っ
ていた。着地した内臓から鋭角の血漿が溢れている。壊れた車輪が
きりきりと空回りする様にカルマの目、霧に潮騒、月に浦安、私は
喇叭を吹かして、お前が逢いに来ることを想ってしまう。流血が鈍
い温度で道路に音符を置いていく。

 半音階さがって、お前のユメをみた。










帰路